「いい本」というのは、たとえば比喩が上手に織り込まれていたり、難しいことをわかりやすく言い換えているものだと考えています。
そこに「なんとなく知っているけれども詳しく知らない内容と、自分に興味があって専門的に扱っている分野の話題を掛けあわせた本」というのもまたいい本なんだな、という1冊に出会いました。
それが、今回ご紹介する本です。
人材育成と、ワインづくりを見事に融合させたこの本は名著です。
『部下を酸化させない育て方』井上雅夫
ワインも部下も酸化させてはいけない
まずは本の帯に感動します。
「ワインが酸化すると?」そして「部下が参加すると?」
この対比で人材教育とワインづくりの橋渡しをしています。
知っているようで知らない「ワインの酸化」を、伸び悩んでいたり育成に迷う社員とをこのように対比することで、ワインってそういうものなんだ!と知るきっかけになります。
そして、上司であれば「うちの部下、ちょっと雰囲気が暗いよな」とか「風味が落ちたワインみたいに個性がないなあ」と気づくのです。
こういった感じに、ワインづくりと人材教育の考え方がシームレスに行き来できるような構成で話がすすんでいきます。
ワインも人材も将来に期待しよう
「ボジョレー・ヌーボー社員」というキーワードが出てきます。
新入社員時がピーク、やる気はあるけど長続きしない、一人前になるには早いがその後伸び悩み・・・。
もちろん、だからといってその社員を足切りにしてしまうのではなく、そういった社員でも活躍できるポイントがあるという話に展開していきます。
そもそも、ワインというのは年代モノに驚くような価値がつけられることがあるように、「投機」です。
それは、社員教育や人材育成でも同じことがいえます。
上司自身がそのポジションにつくまでに歩んだ道のりを部下に提示するノウハウや考え方は、部下のポテンシャルを見抜くことからはじまり、期待を裏切られてもめげないということにまで発展します。
そう、うまくいかないことだってあるんです。
それはワインも人材育成にも同じことです。
そのために、うまくいかないことの繰り返しで自分自身のスキルを高めるとともに、期待を込めて、感謝を言葉であらわし続けることがすべてのものが実っていくといえます。
まとめ
著者は海外で多国籍スタッフを取りまとめるマネージャーとして、その経験を長く積まれました。
そもそもの日本文化とは異なる文化圏でのメンバーとともに仕事をし、そこでワインづくりと人材育成が合致することを発見されてきています。
ワインづくりと人材育成がこれほどまでになめらかに知識として入ってくるのは、その文体がやさしくて読みやすいものであることもそうですが、部下に対する期待がそのまま愛情となって本となっているからかもしれません。
いい本でした。