一企業が日本の四季を背負う重圧。
1.本の紹介
「金鳥の夏、日本の夏。」といえば、誰の耳にも馴染みのあるフレーズですよね。
そんなフレーズも一朝一夕でできあがるものではなく、メーカーとクリエイターや演者、そしてそこから発信される情報に共感を得て製品を使う消費者との関係性から成り立つものです。
その裏側を当事者の話をふんだんに盛り込みながらまとめたのが、この1冊になります。
2.本の要約、3つのポイント
1)テレビCMの舞台裏に広がる悲喜こもごも
大日本除虫菊株式会社と言われても、ほとんどの人はきょとんとするでしょうね。
しかし「金鳥」といえば途端にイメージが湧き、「金鳥の夏は?」と訊けば「日本の夏」という句が続くくらいにそのブランドは確固たるものになっています。
奇抜でキャッチーなテレビCMが生まれてきた舞台裏には、企画をしてきた多くの広告代理店、キャスティングされた多くの芸能人、もちろんメーカーの人たちの力があります。
そこでつくられたCMを見て影響を受けた多くの消費者によって、今にして「金鳥の夏、日本の夏。」という、一企業が日本の風物詩を背負って立ってもおかしくないポジションに仕立て上げたものです。
そういった舞台裏で活躍してこられた方たちによる当時の振り返りによって、この本は進んでいきます。
そもそも「金鳥の夏、日本の夏。」というコピーは、どなたが最初に言い切ったのかが明確にされていないというのも興味があるところです。
2)あくまでも商品を知ってもらって、売上につなげる
広告代理店も演者も、そしてメーカーという当事者も、おもしろいCMをつくることが目的ではありません。
伝えたいことは製品の特性、そしてその製品が生活にとってどんなメリットをもたらすのか。
そのことを伝えるためのCMである以上は、売り上げがすべてを物語るわけで、CMが何かの賞を受賞するということはまるで意味がないとまで言わしめます。
良くも悪くも、興味を引くCMのおかげで生産が追いつかずにクレームになるということも起こり得るようです。それだけに、CMの与えるインパクトの強さと、「金鳥」というブランドのなす力を知るところになります。
3)まじめだから真剣に取り組むことができる
おもしろいCMの企画を通すメーカーだから、さぞやおもしろい体質の企業かといえばそうでもないようです。
むしろまじめに、品質には十分に気を配っているからこそ、CMがおもしろくできるというわけです。
品質が伴っていないのに、ただのおもしろCMな企業だけでは消費者には飽きられてしまいますからね。
それを象徴する企業スローガンは、会社の歴史と変わらない決心を見事に表現しています。
「昔も今も品質一番」
3.本から学ぶ、3つのキーワード
1)「金鳥の夏、日本の夏。」
130年の歴史を誇るこの企業が、いまでは誰もがしるこのコピーを50年以上も使い続けているということは、子どもでも覚えられ、真似しようと思えば誰でも真似できることをひたすらに使い続けてきたことにその成果があります。
日本、夏、そして金鳥。
この3つのワードで、企業が日本の四季を背負えるのです。
2)「クレームをCMに」
今のご時世、モンスターほにゃららと言われるような人たちに言論を押さえつけられて、言いたいことも抑制しないといけないシーンは多くあります。
しかし、クレーム=悪ではないと考えれば、それを逆手に取ってCMにする度胸もまたあってしかるべきでしょう。実際に金鳥のCMではそれがありました。
大切なのは、共感を得ること。クレームさえも共感につなげることは可能です。
3)「ギャップに潜むリアリティ」
CMのコンセプトにせよキャスティングにせよ、消費者をあっと驚かせるようなギャップを持ち出すことで「金鳥のCM」をより際立たせます。
しかし、それをプランニングする側にしてみれば、何も奇をてらったことばかりをうち続けていてもそれは消費者には伝わってしまうし、なにより製品の持つ特性、本当に伝えたいことを伝えられるような企画でなければ興味を持ってもらえないといいます。
リアリティを貫きながら、どれだけのギャップで驚かせるか、ということです。
4.本から実践、ひとつの行動
『金鳥のCMを見てみよう』
メーカーサイトには、現在視聴できるCM集があります。
キーワードにも挙げた「ギャップに潜むリアリティ」をどんな形でCMとして昇華しているのかを見てみましょう。
メーカーサイトはこちら
5.ご紹介した本の情報
6.スギコラム(読後感想)
この本、単純に面白かったです。
広告制作やマーケティングといった箱庭で生まれがちなものを、どれだけキャッチーに見せるかを体現してきたのが金鳥のCMです。
しかし、そういったありがちな枠組みのなかにありながらも、よく言う「興味のずらし」を活かしながら製品の本質を伝えるのか。
その苦労を当事者の話とともにまとめられた本は、まさにリアリティがふんだんに詰まっていました。
機会があればぜひ読んでみてください。