1.本の紹介
「日本死ね」は、昨年の流行語にノミネートされた言葉ですね。
国策を憂い、努力しても報われない環境を国に向けて咆哮したものですが、果たしてそれは正しい考えかたなのでしょうか。
この本では、新卒一括採用が抱える問題について、諸外国のそれと比較しながら検証しています。
2.本の要約、5つのポイント
1)「お祈りメール」とは
「お祈りメール」とは、就活生に不採用を通知するときに「ご縁がなかった」ということを伝えつつ、今後の就職活動と発展をお祈りする、という内容のメールを指します。
メール文化、ひいてはネット型就職活動が、盛んになってきたことによって生まれた新しい文化です。
このメールは、慇懃(いんぎん)で紋切り型の文章として多用されるものの、真面目に就職活動をしながらも文字通り「ご縁がなかった」人にとっては、その数は莫大なものになって精神的にも疲れてしまうことになります。
ただしかし、「お祈りメール」をもらったことで「日本死ね」と思わざるをえない環境が本当に日本の雇用環境にあるのでしょうか。
それについて説いたのが本書になります。
2)諸外国の就職環境は本当に青い芝生なのか
新卒採用を一括で行う理由は、日本の会社組織に古くから受け継がれる人事制度、組織図にあります。
上役のポストが、退職や定年をもって空席になると、基本的には下位層から引き上げが行われます。
このヒエラルキーを維持するためには、末端となる新卒社員をたくさん採用する必要が生まれてきます。
一方、欧米では、会社に属するのではなく、決められたポストに就任するという考えになります。
もともと学校でも労働型と知的型の教育専攻に分かれていることで、子どもの頃から真剣な学習に身を投じていなければ、大人になってから就きたいポストにも就けず人生の見通しが明るくないということもあります。
会社の環境に応じて、仕事と立場が変わる日本、生涯に渡って給料も地位もほぼ固定化される諸外国、どちらがいいかというのは、もはや個人の価値観に委ねるしかありません。
3)学生も頑張っている
就職活動を頑張っている大学生は「勉強せずに遊んでばかり」と揶揄されることも少なくありません。
しかし、そうであったとしても、対人関係であったり社会適応力といった人間的な側面も大きく磨かれる時期であり、大学入学までに身に着けた勤勉さとともに、会社組織に属してからもその環境でうまく適応していくためのスキルというのは機能していきます。
4)日本型新卒一括採用がもっとも手をかけるべきことは
新卒一括採用のメリットは、仕事に対するスキルや能力を求めるものではないので、基本的には大学在学中にはある程度の人選を行えることにあります。
そうかといって、これまでにもありがちな就職活動解禁がどんどん前倒しになっていくことは、学業や本来の学生本分のあり方に著しい影響をあたえることにもつながっていくので、決して望ましい方向ではないといえます。
欧州型のように、学校の学習要項から手をかけてしまうような大掛かりなやりかたは
即効性がないばかりか、個人のあり方をぞんざいにした「心」のないものになります。
果たしてそれは日本的といえるのでしょうか。
結局のところ、今の新卒一括採用の環境のなかでよりよい最善策を模索し続けていくことがよいと考えられます。
5)「働く」を語るには
労働環境の是非を語るときには、どうしても日本と諸外国を比較します。
現在どうあるのかが議論されるもので、なかなかそこにいたるまでの歴史までを言及するものではないこともあります。
「働く」ということについて語るには、これまでの日本の労働環境がどういう歴史を歩んできたのかという時系列で見る「縦」の軸と、諸外国の現状と、同様に歴史を比較するというグローバリゼーションの「横」の軸とで語り、討論する必要があります。
いずれにしても、早計に答えが出るものではなく、部分的なつまみ食いではいつまでも解決の糸口を見ることのない問題であることは、容易に想像できます。
3.本から学ぶ、3つのキーワード
1)「名ばかりインターンシップ」
学生と企業のマッチングをするために招致するインターンシップにも、有益な場合とそうでない場合とがあります。
インターンシップが果たすべき目的を理解していなければ、単なる物見見物程度の時間つぶしとなってしまい、企業の採用目的にそぐわない結果をもたらしかねません。
2)「就活支援」
就職活動は、本来は学業の時間以外でできるもので、しかし現在は学業の時間に手をかけてしまうことが問題視されています。
たとえば、有限の時間のなかで将来を左右する就職活動よりも、スマホで時間を浪費することが当たり前になっていることがあります。
単に働き方、働き口を伝えるだけのこれまでの就活支援ではなく、ある種の生活習慣についても言及する必要が出てきています。
3)「社会の中間層が抱える不満」
実はこれは、日本でも欧米でも欧州各国でも語られています。
日本型の就職活動は、一旦入社できればそこそこの成果を出し続けることである程度の将来性は確保できます。
そこでの問題は、仕事が無限にあるように見えること。
欧米では、ポストや企業の出入りが激しい分、生存競争の厳しさがあります。
欧州では、先に書いたとおり幼少期の能力でほぼ生涯の働き方を固定されてしまいます。
要するに、何も知らない幼いころとある程度の地位を確立できたいわゆる成功者が、精神的、経済的に満たされる社会に中間層でもがく人間はどこの国でも悩みは尽きない、ということです。
本書の末項にまとめられています。
4.本から実践、ひとつの行動
『縦と横で語る』
歴史的な問題、世界各国でも起こりうる課題について考えたり討論する場合は、歴史という「縦軸」と諸外国という「横軸」を用いて考えてみることにします。
これで物事を俯瞰することで、一方的で排他的な解釈から距離を置く見地と分析ができるようになります。
5.ご紹介した本の情報
6.スギコラム(読後感想)
今日の本は、タイトルをキャッチーにするためにあえて「日本死ね」を使っていますが、内容としては実に論理的で幅のある解釈を読ませてくれる内容でした。
どんな分野においても一家言ある人はいるもので、そういう人たちの解釈を受け取るにはつねに「歴史」と「諸外国」という軸で語り、分析することの必要性を感じます。
それでいてはじめて「隣の芝生はよく見える」という環境に論理的な説明がつけられて、より正しい判断ができるようになるというものですからね。
それにしても、現代の就職活動はネット型にシフトこそしていますが、私が20年前に活動していた頃とそれほど、いやなんら変わっていないような気がしました。
これは、いいものがよりよく磨かれているのか、社会が変化を恐れているのかいったいどちらなんでしょうか・・・。
その答えを探すために、もう一度この本を読んでみます。