「安くていいものを買いたい」
「長持ちするものを買うことがいいことだ」
「ちょっと高いけれど、自分へのごほうびにコレを買おう」
何かを買うときには、必ずと言っていいほど自分の都合、自分が納得できる理由をもってその買い物を決行しますよね。
買い物に限らず、いろんな支払いにしてもそう。
そして、自分の中で納得した支払いで手にしたそれを、さらに自分の都合のいいように解釈しながら使い込んでいく。
本人にしてみればきちんとした理由付けができているようでも、実ははたから見たら「なんて不合理な・・・」というふうに写って見えることがあるんです。
それを「行動経済学」という学問の観点から論じているのが、この1冊です。
『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』ダン・アリエリー
心理学+経済学=行動経済学
「行動経済学」とは、心理学と経済学の両面を持ち合わせた新しいジャンルの学問です。
つねに高度で合理的な意思決定を繰り返しているように見られる人間の行動も、冒頭に書いた3つのシチュエーションの背景にはその意思決定の裏返しにある不合理性に疑問を持ちたくなることもあるのです。
たとえば、安くていいものを買いたいと思っても同じような性質、性能の品物であれば少し値段が高くても著名なブランドのものを買っているということもあります。
ちょっと高いけれども手を出した自分へのごほうびが、実はダイエットを決めた人が手を出したケーキだったりすることもあるのです。
完璧に見える人間の意思決定は、水際のところで思いがけない不合理性によっていとも簡単にその末路が変わってしまうのです。
しかしこの行動も、「予想どおり」なのです。
「決断の錯覚」にだまされる自分
感情や相対性、社会規範にのって自分の意思がかたくななものになっていたとしても、いざという判断の瞬間にはそれらを無視したり過小評価することも少なくないのです。
そしてその判断が結果として間違っていた、つまり不合理な考え方だったとしてもそれを繰り返してしまうのは人間の人間らしさでしょう。
買い物を後悔したり、ダイエットは明日からと言いながらがつがつとデザートを食べたりというのも、合理的な思考で考え抜きかける間際に、それまでの判断材料をころっと無にしてしまうような「決断の錯覚」、たとえば「ま、いっか」といったひとことに集約されているかもしれません。
本書では
その具体的なシチュエーション、たとえば同じ性能の薬でも値段の高いものに効果を見出すということや、無料のクッキーを振る舞われるよりもお金を払うものに価値を見出すのかといったことをことつぶさにまとめてあるのが本書です。
何気なく見える行動のひとつひとつ、「ま、いっか」で終わらせてしまいかねない経済への意思決定が心理的な行動とどのように結び合っているのかを知るにはとても深い学問だということがわかります。
とはいえ、「ま、いっか」で思考停止してしまうと、この本はただのヘリクツ本に見えるかも・・・しれませんね。
私は楽しく読めました。